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title: ヘンリー・ジェームズの『ねじの回転』
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author: kazu634
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date: 2006-12-19
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- つれづれ
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以下の文章はサークルで発行している書評誌に載せた原稿です。とりあえずここに書き散らかしておきます。ちなみに結構やっつけ仕事。この文章の主なターゲットと目的は、    
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オーディエンス:文学におけるモダニズムを知らない人       
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目的1:モダニズムの位置づけ把握してもらう       
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目的2:ヘンリー・ジェームズの作品の特徴を知ってもらい、あわよくば読んでもらう
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『ねじの回転』 ヘンリー・ジェームズ著
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<small>物語は彼女の妄想なのか、それとも真実なのか―語りの場を前景化することにより新たな「小説」を試みた作品群の一つである『ねじの回転』は我々に「小説を読む」ということはどのようなことなのか再考を促している</small>
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英文学の歴史の中で「小説」というジャンルが生まれたのは遅い。我々が英文学と聞いてまず思い出すShakespeareは1600年ぐらいの人で、その頃は詩と演劇しかなかった。[*1]時代が下って、活版印刷と識字率が向上しだして始めて、小説というジャンルが誕生した。その誕生の経緯は定かではないが、「演劇の発展上から小説というジャンルが生まれたのではないか」という説がある。[*2]そして時代は下ってヴィクトリア朝になると、「小説」というジャンルが一気に隆盛した。識字率の向上により人々が余暇を楽しむものとして小説が読まれるようになったのである。この時代、ある一定の決まりに則っていかに優れた作品が書けるかが追求された時代と捉えることが出来る。つまり、現在の我々が一般的に「小説」と聞いて連想するような、三人称の何でも知っている語り手が物語を語るというスタイルである。その頂点に立ったのがディキンズである。[*3]
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そうしたある一定の決まり事の中でこれ以上の出来が考えられないような成果を達成されてしまった後の世代の小説家たちは、どのような行動を取ったのだろうか?それは、それまで以前には当然視されてきた「ある一定の決まり事」が慣習にすぎないとして、その決まり事を意図的に破る方向へと歩を進めたのである。[*4]今回紹介するヘンリー・ジェームズもそうした作家の一人である。
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ヘンリー・ジェームズが書いた『ねじの回転』では、怪談話をしている場で、ある人が知人の女性から手紙を受け取りそこに書いてあった話として、その手紙を元に話をする…という状況設定であることがまず明かされる。そして、その語られる物語というのはその家庭教師[*5]が自分の預かる子供たちに幽霊が取り憑いていると考えたあげくに、子供の一人がその幽霊によって死んでしまうというものだった。
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一見ありふれた、怪談をする人々を描いた作品のように現代の我々は思うかもしれないが、この物語は何でも知っている三人称の語り手による物語が一般的だった時代の後に登場しているのである。この『ねじの回転』の語り手は、手紙を読み話している人物だが、この人物は明らかに何でも知っているわけではなく、知識に偏りがある。さらに手紙を書いた元家庭教師にしても、彼女が述べていることが事実なのか、それとも妄想なのかが議論の対象となっているほど曖昧なことを述べているのである。[*6]
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従って、こうした歴史的な背景を知らない状態でこの小説を読むと、面食らって拒絶反応を起こしてしまう。[*7]我々が持っている「小説を読む」ということがどういうことなのかという考えに異議を申し立てているからである。だが、こうした歴史的背景をふまえた上で読むと、ある程度は楽しめるようになる…と思われる。スタンダードな考え方からいかにずらしていくかが、ヘンリー・ジェームズを含めた一群の作家の問題意識なのである。こうした「ずらし」が楽しめるようになると、一歩大人に近づくのではなだろうか。大人を目指すあなた、読んでみてはどうだろうか。
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[*1] 一般の人々の識字率がひどかったというのが理由の一つ。もう一つの理由として、活版印刷がようやく普及しだした時代ということも挙げられるだろう。基本的に文字が読めると言うことはすごいことだった。
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[*2] 英文学史上初期の小説に、サミュエル・リチャードソンによる書簡体小説『パメラ』があるため。書簡体小説というのは、手紙と手紙の往復によりストーリーが進むために、一種の「台詞のない芝居」として読まれたのではないか…というのが基本的なアイディア。
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[*3] イギリスではShakespeareの次に凄い人とDickensは考えられている。
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[*4] こうした動きを一般的に「モダニズム」と呼ぶ。
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[*5] この小説が書かれた当時、家庭教師は基本的に女性の仕事だった。
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[*6] 詳しくは掲載している邦訳の後書きを参照のこと。
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[*7] といっても、基本的にモダニズムの作家を前提知識なしで楽しんで読める人というのはなかなかいないかもしれない。
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