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「サイラス・ラパムの向上」について kazu634 2006-06-18
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つれづれ

原稿

 サークルで本の紹介をすることになったので、その原稿をアップしてみました。


–第一次世界大戦後のバブルの時期にボストンの上流階級の社会に受容されようとし、果たせなかった一家の姿が描かれた作品–

 先日、”The Rise of Silas Lapham”という小説を読んだ。邦題は「サイラス・ラパムの向上」となる。【注1】

 ここで「向上」というタイトルになっているのは、この小説の主眼がボストンの上流階級の人々に受容されようとする成金の中流階級のサイラス・ラパムの姿を描くことではなく、そうした試みをし、突然の事業の失敗による破産などを通して主人公であるサイラス・ラパムが成長していく様子を描くことだからである。

 このようなことが主眼となっていることからも推測できるように、サイラス・ラパムは物語の前半部分では無骨で、自慢ばかりする人物として描かれている。生粋のボストンっこ達からは、やや煙たがられているのだが、本人はそのことには無頓着だった。この小説は語りの戦略として、サイラス・ラパムの視点と上流階級の人々の視点という二つの視点を提示することを選んでいる。このことにより、同一の出来事に対して互いがどのように反応したのかが併置されている。こうした同じ出来事でも見方が異なっていることが分かる点が非常におもしろい部分だと言えると思う。

 だが、こうしたことにおもしろさを感じられない人にとっては、この小説の前半部分はつまらなく感じられることだろう。だが、そうした人たちも後半部分、ラストまで後三分の一ぐらいから一気にぐいぐいと読み進めていけるようになる。そのあたりから、サイラス・ラパムが一気に没落していくのである。そのちょっと前からその兆候はあったものの、建築中の新居(もちろん成金のサイラス・ラパムがたてているものだから、お金をかけている。お金に困るようになっているラパムはこれを担保として銀行から多額のお金を借りることだってできた)がラパムの不注意から火事で全焼、保険もちょうど切れたところだということが分かる…というあたりからは、もうぐいぐいと読み進むことができる。さんざんお金があることを誇っていたラパムが破産へと向かっていく様子はおもしろいものだ。

 ラストでは、登場人物達の大半が幸せになるという喜劇のようなラストになっている。喜劇に似ているという点から考えてみると、この小説には演劇的なセリフ回しがされていたり、演劇的な状況描写がされていたりと、演劇から影響を受けたと思われる部分が結構あるように感じられる。

 同一の出来事に対して、異なる見方があることを提示した作品を読んでみたいという方に、この作品はお薦めできる。


  1. このように書いてはいるものの、どの本に収録されているのかを発見することはできなかった…すいません。

The Rise of Silas Lapham (The Penguin American Library)
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