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スティーブ・ジョブズのスタンフォードでの卒業式スピーチを読み比べる | kazu634 | 2005-09-14 |
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スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学の卒業式演説がAERAでも掲載されている。ネット上にも様々な翻訳がある(例えば、こことかこことか)が、私は今津英世氏の翻訳が一番優れていると思う。なぜならば、冒頭のこの部分を今津氏は次のように訳しているからだ。
‘You’ve got to find what you love,’ Jobs says
「たまらなく好きなものを見つけなければならない」ジョブズは言った。
この「たまらなく」がポイントになると私は思う。スティーブ・ジョブズはまぎれもなくハッカー【注1】の一員であり、ハッカーたちはHack-Valueと呼ばれる価値観を共有している。このhack-valueについてWikipediaには次のように書いてある。
Hack value is the notion among hackers that something is worth doing or is interesting. This is something that hackers often feel intuitively about a problem or solution; the feeling approaches the mystical for some.
Doing something others think impossible, and doing it with finesse, cleverness, or brilliance implies the solution has hack value. For example, picking a lock has hack value; smashing a lock does not. However, being the first to work out that super-cooling an “unbreakable” high-tensile steel lock with liquid gas making it possible to smash has hack value.
拙訳
「ハックの価値」(=hack-value)とはハッカーの間で共有されている、何がやる価値があり、面白いことなのかという考えのことだ。これはハッカーたちがしばしば本能的に問題や解決策について感じていることだ。この感覚を神秘的に受け取る人もいる。
他の人が不可能と考えることをすること、そしてそれを鮮やかに、利口に、そしてすぐれた方法で解決することが、その解決策には「ハックの価値」があることを暗示している。錠を壊すことには「ハックの価値」がないのとは正反対だ。しかし、「壊せない」伸縮性の鋼の錠を液体ガスで冷却し、壊せるようにすることには「ハックする価値」があることになる。
要するに、何か問題を解決しようとするときに、その解決方法を思いつくのが困難でありなおかつ鮮やかであれば、その解決方法には「ハックの価値」があるということなのだろう。だから普通の錠を壊すことには「ハックの価値」はなく、「壊すことができない錠」を壊すことには「ハックの価値」があるということになる。
このような価値観をジョブスも共有していること、そのように考えるとジョブスの演説の第二点目の真意は自分にとって「ハックの価値」ある問題に取り組むような仕事を見つけよ、ということになることを踏まえると、この”‘You’ve got to find what you love,’ Jobs says”の”what you love”というのは非常に重い意味を担ってくることになる。つまりこの”what you love”というのは、どれほど困難であろうとも、諦めることなくその解決策を考え続けられるものを指すことになる。
このように考えてみると、”‘You’ve got to find what you love,’ Jobs says”が単純に「好きなものをみつけなければならない」であるわけがない。それは「たまらなく好きなもの」でなければならないのだ。以上の理由から、私は今津英世氏の翻訳がハッカー的な価値観を反映しているという点で、一番優れていると思う。
- 注1 – ハッカーの定義は様々でありプログラムをする人以外にも、ハッカー的な態度さえ共有していればハッカーと見なされる。ここを参照